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東京高等裁判所 平成10年(行コ)178号 判決 1999年6月29日

東京都世田谷区八幡山三丁目三〇番六号

控訴人

小林直人

右訴訟代理人弁護士

馬場恒雄

田中史郎

東京都世田谷区松原六丁目一三番一〇号

被控訴人

北沢税務署長 高橋政志

右指定代理人

森悦子

赤池昭光

上出宣雄

佐藤繁

髙橋博之

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成六年六月二七日付で控訴人に対してした平成五年七月一一日相続開始(被相続人小林茂司)にかかる相続税についての控訴人の更正の請求に対して更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

3  控訴費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二  本件事案の概要は、原判決の事実及び理由の「第二 事実の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、控訴の理由に鑑み控訴人の主張に対する当裁判所の判断を念のため以下のとおり付言することとする。控訴人は、(一)本件不動産については亡茂司の相続開始三年以前に当たる平成二年七月一一日までに売買契約が締結され、亡茂司は手付金として六五〇万円を支払っており、且つ、本件建物については亡茂司名義で表示登記を完了していたこと、(二)右相続開始三年以前に本件建物が既に完成し、亡茂司においてアパートの名称を「メゾンリベルデ」と決め、売主である朝日土地からプレートまで贈呈されたこと、(三)売主朝日土地了解の下に、京王不動産が亡茂司を賃貸人として本件建物の賃借人の募集活動を開始し、朝日土地から本件建物の鍵を預かって、本件土地、建物に自由に立ち入りできたことに加え、(四)亡茂司は残代金についてはいつでも支払える準備をしていたものであり、朝日土地と亡茂司の売買契約においては、売買残代金の決済及び本件不動産の引渡時期については、朝日土地の要求にしたがっていつでもできるような約定になっていたものであるから、本件不動産は、平成二年七月一一日以前に既に亡茂司に「実質的な支配・管理」が移転し、亡茂司が「その財産権を確定的に取得していた」と評価されるべきであると主張する。しかしながら、亡茂司が支払った手付金は六五〇万円で、本件不動産の売買代金一億三一三五万円の五パーセント弱にすぎないし、本件では本件建物の表示登記は亡茂司の所有権保存登記がされた平成二年七月三一日に先立つ同年六月二〇日になされているが、表示登記の名義人は所有権保存登記の申請適格者になる(不動産登記法一〇〇条一項一号)ことなどから、残代金決裁時等に速やかに所有権保存登記ができるように、最初から売主ではなく買主名義で保存登記することがしばしば見られるところである(原審証人渋谷及び弁論の全趣旨)。また、本件建物は賃貸用アパートであるから、買主としては物件の引き渡しを受けた後速やかに第三者に対する賃貸を開始するために、あらかじめ種々の準備活動を行っておくことはむしろ当然のことであって、前記(一)ないし(三)の事実があるからといって、これによって直ちに亡茂司が平成二年七月一一日(亡茂司の死亡日)以前に本件不動産を支配・管理し、これを確定的に取得したものと認めることはできない。むしろ、証拠(甲四ないし六)により認められる本件不動産の売買契約においては、手付金六五〇万円を控除した売買残代金一億二四八五万円の支払時期は平成二年九月五日とされ、所有権移転の時期は残代金支払の時であり、右所有権移転と同時に本件不動産を引き渡すものとされており(売買契約書六条)、右引渡前に買主、売主双方の責めに帰すべからざる事由により物件が滅失等したときは売主・買主は本件売買契約を解除することができ(同九条)、本件不動産の公租公課は右引渡時を基準にして、引渡日の前日までは売主・引渡日以降は買主の負担とされ(同一一条)、さらに、瑕疵担保責任については、売主は右引渡の日から二年間担保責任を負う(同一二条)旨合意されていること、及び本件不動産の内の本件土地のうち小島町二丁目一一番二の土地(原判決別紙物件目録記載一の土地)には、売主である朝日土地を債務者とする極度額一億円の根抵当権が設定登記されていたが、右根抵当権設定登記は本件売買残代金が支払われた平成二年七月三一日に抹消されていること、同二丁目一一番一四の土地(同目録記載二の土地)は、同年六月二二日に分筆登記された上、所有名義人株式会社全宅から亡茂司に所有権移転登記されているが、右土地についても極度額一億円の根抵当権が設定登記されており、右ね抵当権設定登記が抹消されたのは同年七月三一日であることの諸事実、並びに原判決が事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」欄の「二」で説示しているところに照らせば、控訴人が前記(四)で主張するように本件売買残代金の支払が確実であることが予想されていたとしても、平成二年七月一一日以前に本件不動産を取得したものとは認めがたく、亡茂司が本件不動産を確定的に取得したのは、本件売買契約の残代金を支払って所有権移転登記及び保存登記をした平成二年七月三一日であると認めるのが相当である。控訴人の前記主張は採用することができない。なお、控訴人は、本件特例は違憲・違法なものでないとしても、相続税の負担回避行為に対する懲罰の一種であるから、相続税の負担回避の意図のない本件にこれを適用するのは違憲・違法であるとも主張するが、本件特例は税負担の実質的公平を図ることを目的とするものであり、税負担回避行為に対する懲罰規定でないことは明らかであり、本件特例が憲法一四条、二九条、三〇条に違反するものでないことは、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」欄の「一」に説示するとおりであって、控訴人の右主張も採用することはできない。

二  よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成一一年四月二七日)

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 宗宮英俊 裁判官 岩田眞)

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